平成15年10月1日「げんきがえる」
こども病院がもつこれからの役割
病院長  中 村  肇
   

本院は、昭和45年に県政100周年記念事業として、国立小児病院に次いで全国二番目の小児専門の総合病院として開設され、小児のための総合的、高度専門医療の拠点として兵庫県の小児医療水準の向上への役割を担ってきました。二十世紀後半の医療の進歩は、科学技術の進歩による医療機器・医薬品の開発を取り入れた高度専門医療が中心であり、我が国の医療水準を世界一に押し上げました。二十一世紀に入り、社会は大きく激動しています。われわれはいま、小児医療への社会のニーズは何であるか?を、一緒に考え、行動しなければならないと思います。

 われわれ子どもに携わる医療者は、単に疾病治療だけでなく、疾病治療を通じて、「すべての児童は、心身ともに健やかにうまれ、育てられ、その生活を保証される」という児童憲章の具現化に努めなければなりません。

1)「安心できる子育て」の実現

 少産少子社会に入り、ひとりひとりの子どもへの親の期待は従前に比べ遥かに大きく、また核家族化の社会であるために親の育児不安は一層高まっています。指導相談部の機能をより一層充実させ、地域の医療資源・社会資源の活用を図りながら、たとえ疾病・障害をもつ子であっても「安心できる子育て」の実現を目指したいと思います。

 本院では、昨年10月から小児救急医療室を開設し、小児三次救急を中心とした救急患者の受け入れ体制を整えました。兵庫県下各地からの三次救急患者の受け入れを行っていますが、救急患者用ベッドは6床のみで絶えず満床に近く、各地の小児医療機関と連携をとりながらその有効活用を図っています。

 小児救急では、必ずしも生命に関わるような重症患者でなくでも、ご両親にとっては夜間の子どもの変化は心配なものです。本院では小児三次救急施設とは言え、毎日数件の電話による相談があります。多くは電話のみで解決しますが、なかには最重症患者が紛れ込み、緊急で来院頂いた患者さんもあります。専門の医師・看護師によるトリアージ機能・デストリビュート機能を備え、より充実した小児救急体制の実現を図り、救急救命だけでなく、「安心できる子育て」支援に貢献したいと考えています。

2)生活空間のアメニティ改善

 「子どもだから、これでよい」ではなく、「子どもだから、こうしてやらねばならない」という発想をもつことです。大人は不満があれば、すぐに口に出しますが、子どもは決して口に出しません。ご意見箱「ハートメッセージ」では、親が我が子の代弁をして下さっています。しかし、子どもにずっと付き添っているのは医療者です。医療者は入院中の子どもたちのお父さんであり、お母さんです。絶えず子どもたちの代弁者であることを忘れずにいて下さい。医療者自身が、子どもの目線で声を出さないと子どもたちのアメニティは改善されません。

3)情報社会から取り残された医療

 こども病院では、子どもさんだけが入院されていることから、入院中の出来事を親が知り得るのは、医療者だけからなのです。われわれも積極的に医療情報の開示に努めてはいますが、パソコン、携帯電話とこれだけ日常生活でITに馴れ親しんだ社会の中では、ご家族になかなか満足していただける情報をうまく提供できていないのが実情です。

 カルテの記載は、私が医師になった30年前とほとんど変わっておらず、患者さんが読まれても先ず分からないと思います。今日のカルテシステムでは、誰がみても分かる記載をするのは困難です。折角ばく大な量の各種検査・治療の電子化された医療情報があるのに、統括的な処理システムがないために、手仕事でカルテに転載するという前近代的な処理が医療の現場ではなされているのです。従前に比し数十倍にも増大した情報の洪水の中で、昔ながらの手法というアンバランスが医療者へのストレスとなり、医療過誤の原因となっています。

 医療分野におけるIT化が、一般社会から大きく取り残されている理由としては、「患者情報の保護・守秘」という面があったからだと思います。しかし、患者情報を患者と共有する体制ができつつある医療機関では、IT化の推進を図ることが医療の透明性を高め、医療不信への解消に結びつくと考えています。

 IT化が実現するまで、当院では人海戦術で患者・ご家族に納得していただける医療を目指していきたいと思っています。

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