小児神経を専門とする施設のなかでも、当科で特に力を入れているのは、熱性けいれんや急性脳症などの神経救急疾患です。
発熱に伴うけいれん・意識障害の小児のうち、以下の3項目のいずれかを満たす状態「重症熱性けいれん」は、神経学的予後不良と関連することを報告しました。
1) 難治性けいれん重積状態(抗けいれん薬投与後も1時間以上持続する)
2) 発症後6時間の時点での神経症状(意識障害や片麻痺など)
3) 発症6時間以内のAST>90 IU/l
(複雑型熱性けいれんの予後不良因子を用いた急性脳症治療開始基準の検討. 永瀬 裕朗, 中川 拓, 青木 一憲, 藤田 杏子, 佐治 洋介, 丸山 あずさ, 上谷 良行. 日本小児科学会雑誌114巻5号858-864, 2010. )
興奮毒性が主体となる1)2)に対して、脳低温/平温療法が神経学的後遺症を減ずることを報告しました。
(Nishiyama M, Tanaka T, Fujita K, Maruyama A, Nagase H. Targeted temperature management of acute encephalopathy without AST elevation. Brain Dev. 2015; 37(3): 328-33.)
サイトカインストームや炎症が主体の急性脳症(発症早期からASTが高いことが多い)では、神経症状が出現してからの経過が早く、神経症状出現から6〜12時間ほどでショックやDICに至ることが多く要注意です。
サイトカインストームや炎症が主体となる3)に対しては、ステロイドパルス療法を試みます。24時間以内のステロイドパルス療法にて後遺症は減りませんでしたが、超早期のステロイドパルス療法で神経学的後遺症を減ずる可能性があります。
(Ishida Y, Nishiyama M, Yamaguchi H, Maruyama A, Nagase H et al. Early steroid pulse therapy for children with suspected acute encephalopathy: An observational study. Medicine (Baltimore). 2021 100:e26660)
(Tomioka K, Nishiyama M, Nagase H, Ishida Y, Maruyama A et al. Detailed clinical course of fatal acute encephalopathy in children. Brain Dev. 2019 41:691–698)
PICUにおいては、意識障害やけいれん重積の小児の脳波をリアルタイムでモニタリングできる体制を24時間365日準備し、治療に役立てています。この体制がとれるのは兵庫県下では当院だけであり、全国的にみてもその実施件数はトップです。
PICUにおける連続脳波モニタリング実施件数(小児救急医療センター開設後)
熱性けいれん・急性脳症に限らず、神経に関連する緊急を要する状態が予測される際には、救急総合診療科が窓口となっておりますので、いつでも御相談ください。
けいれん性てんかん重積状態に対して、よりよい治療戦略によって後遺症を減らすことができる可能性を報告しました。重症の難治性てんかん重積状態にはバルビツレート昏睡療法併用での体温管理療法を行っています。
(Ishida Y, Nishiyama M, Yamaguchi H, Maruyama A, Nagase H et al. Thiamylal anaesthetic therapy for febrile refractory status epilepticus in children. Seizure. 2020 80:12–17)
(Tokumoto S, Nishiyama M, Yamaguchi H, Maruyama A, Nagase H, et al. Prognostic effects of treatment protocols for febrile convulsive status epilepticus in children. BMC Neurol. 2022 Mar 5;22(1):77.)
発熱に伴うけいれん・意識障害の小児において、より高い精度で後遺症を予測するための研究にも取り組んでいます。劇症型の急性脳症でのサイトカイン動態を明らかにしたほか、GDF-15というマーカーが後遺症を予測する可能性を報告しました。
(Yamaguchi H, Nishiyama M, Maruyama A, Nagase H et al. Elevated cytokine, chemokine, and growth and differentiation factor-15 levels in hemorrhagic shock and encephalopathy syndrome: A retrospective observational study. Cytokine. 2020 137:155324)
(Yamaguchi H, Nishiyama M, Maruyama A, Nagase H et al. Growth and differentiation factor-15 as a potential prognostic biomarker for status-epilepticus-associated-with-fever: A pilot study. Brain Dev. 2022)
COVID-19に関連した神経症状や熱性けいれんの特徴について研究し、以下の知見を得ました。
1)COVID-19に関連した熱性けいれんの発症年齢はnon-COVID-19群よりも高い。
2)神経症状や神経学的後遺症の頻度は、COVID-19群とnon-COVID-19群で同等である。
3)COVID-19群では、意識障害が遷延したにも関わらず脳波モニタリングを行われていない症例が多く、隔離や感染対策の影響が示唆される。
(Hongo H, Nishiyama M, Ueda T, Maruyama A, et al. Comparison of neurological manifestation in children with and without coronavirus 2019 experiencing seizures with fever. Epilepsy Behav Rep. 2023 5;24:100625)
連絡先 | 連絡先:兵庫県立こども病院 神経内科 住所:〒650-0047 神戸市中央区港島南町1丁目6-7 電話(078) 945-7300(代表) |
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